随筆春秋会員の熊井禎臣さん、短編小説集『一枚の絵葉書』を上梓! 


随筆春秋会員 熊井禎臣

貞観政要』の「人怨則神怒 神怒則災害必生」そして「君舟也 人水也 水能載舟 亦能覆舟」(「人」「水」を「顧客・従業員」、「君」を「社長」と読み替えました)との言葉に怯えた、不出来な二世経営者が、己の心の中を見つめるために、睡眠時間を削りに削って、40代に書き上げた作品ばかりです。ご笑読ください。


代表理事 池田 元

ご存じの通り熊井さんは草創期からの同人です。初代編集長であり朝日新聞記者であった故斎藤信也先生の愛弟子でした。その縁で娘さんであり朝日新聞皇室報道担当の久保谷智子さんが表紙絵とカットを描いてくださいました。

また大河ドラマ「秀吉」「利家とまつ」の脚本家、竹山 洋先生があとがきを寄せてくださいました。


竹山 洋先生


 【あとがき】

熊井禎臣(敬称略)の短編小説集・『一枚の絵葉書』の最初のページに、
【わが師(随筆春秋元代表)・故斎藤信也先生に捧ぐ】
と、ある。
熊井は、長い歳月、斎藤の指導を受けて随筆を書いてきた。あるとき斎藤が、あなたには小説の才があると言った。熊井はそれで小説を書き始めた。
斎藤は慧眼(けいがん)であった。

「気が臆する」
書物を読み、それを原作として映画やドラマ、演劇の脚本を書かねばならぬとき、時として気が臆するときがある。聳(そび)え立つ高山が、眼前にあらわれて、その山に登らなくてはならぬ、というような峻厳(しゅんげん)な気持ちを抱く。
私事で言うと、藤沢修平の『三屋清左衛門残日録』『風の果て』、松本清張の『点と線』『鬼畜』『砂の器』、大伴家持が編纂(へんさん)したといわれる『万葉集』、なかにし礼の『長崎ぶらぶら節』など、その原作小説の、山の高さ、険しさに、(書けるか……)と、気が臆したことがあった。
そういうときには必ず高熱が出た。作者と私の霊魂が戦っているのである。言霊。作者の言霊、魂がそこに近寄る私の魂と、命のやり取りをする。そして私の魂が、善なるものだと認めたときに「書いてもよい」と、作者の魂は和らぐ。高熱が下がり楽になる。それからはペンが走り始める。
熊井禎臣の小説を読んだときに、久しぶりに「気が臆した」。
この人は、命がけで書いている。随筆を主に書いてきたらしいが、小説の方がこの人の心魂であろうと思った。家屋敷の情景の描写の精緻さ。登場人物たちの気質、心の闇の黒さや血の赤さ。特に感心したのは、男女の情交の風景の艶である。色ごとのたとえようのない淫靡(いんび)さ。
松本清張の本格的推理小説の趣で『暗黒の川』の終盤は圧倒的な迫力がある。時代小説の『白い人の館』と『暗紅の袱紗』は、人間の業を描き切った秀作である。脚本を書き、映画化をしたい(熊井が脚本化を許すかどうかはわからないが)。
熊井は、武田信玄に滅ぼされた小笠原家の一族だという。そのことを書いた小説が読みたい。実は、私は武田信玄の血脈を継ぐものである。滅ぼされた側の小笠原家から見た、信玄の姿をどのように描くのか。
【知りがたき事、蔭の如く】
武田信玄の戦旗「風林火山」の後に続く、孫氏の兵法のこの言葉。知りがたき事、蔭の如く……その言葉のような信玄の蔭、闇を描いてもらいたいと思っている。

熊井禎臣さん『一枚の絵葉書』
ご出版 おめでとうございます


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2022.04.26加筆修正
正倉一文


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